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鳥取家庭裁判所米子支部 昭和51年(家)47号 審判 1980年8月15日

申立人 田辺あや子

相手方 田辺春子 外一名

主文

一  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙目録番号一ないし五、七、八、一四、一五の各土地ならびに番号一二、一三の各建物は相手方田辺春子がこれを取得する。

(2)  別紙目録番号九、一〇の各土地ならびに番号一一の建物、被相続人の交通事故死に基づく自賠責保険金(但し、被相続人の国民金融公庫に対する債務額三五二、〇〇〇円と約束手形債務額一、二四三、三〇〇円を差引いた残額)、同原因により加害者から支払われた損害賠償金、株式会社○○○○銀行○○支店に対する田辺組田辺吉松名義と田辺吉松名義の計二口の普通預金、株式会社○○○建設会館株券(額面一〇、〇〇〇円)一枚、株式会社○○○○○建設会館株券(額面一〇、〇〇〇円)九枚、同株券(額面一、〇〇〇円)九枚は申立人がこれを取得する。

(3)  別紙目録番号六の土地は相手方田辺芳子がこれを取得する。

(4)  相手方田辺芳子に対し、遺産分割調整金として、申立人は金一、三四五、八五二円を、相手方田辺春子は一四三、七八六円を支払わなければならない。

二  申立人および相手方田辺芳子は相手方田辺春子に対し、別紙目録番号一ないし五、七、八、一五の各土地ならびに番号一二、一三(但し納屋を除く)の建物につき

相手方田辺春子および同田辺芳子は申立人に対し、同目録番号九、一〇の各土地ならびに番号一一の建物につき、

申立人および相手方田辺春子は相手方田辺芳子に対し、同目録番号六の土地につき

それぞれ本件遺産分割を登記原因とする各共有持分(各自各物件につき三分の一)の移転登記手続をせよ。

三  鑑定人に支給した費用五万円はこれを三分し、各一を各相続人の負担とし、証人に支給した費用二、五六〇円は相手方田辺春子の負担とする。

理由

第一  本件申立の趣旨

被相続人亡田辺吉松の遺産の分割を求める。

第二  当裁判所の認定した事実と判断

審問、証拠調および調査の各結果にもとづく当裁判所の事実上、法律上の判断は次のとおりである。

1  相続の開始

被相続人田辺吉松は昭和四五年八月三〇日死亡して相続が開始し、その妻である申立人ならびに被相続人と亡田辺みよ(昭和八年ごろ死亡)との間の子である相手方田辺春子(以下春子という)および田辺芳子(以下芳子という)が右遺産を相続したが、右三名の相続分は、被相続人が遺言をしたことが認められないので、法定相続分に従い各三分の一である。

2  分割協議の経過

申立人は昭和五〇年三月一一日相手方春子、同芳子両名との間に遺産分割の協議がととのわないとして、当庁にその調停を求める申立をなし、当庁同年(家イ)第四五号調停事件として係属したが一旦不調となり、その後再度調停に付され同五三年(家イ)第四三号調停事件として係属し、昭和五三年三月一七日から同年九月一三日まで七回にわたり家事審判官による調停が試みられたが、当事者間に合意が成立するに至らなかつた。

3  遺産の範囲

(1)  不動産

被相続人の遺産である不動産は別紙目録記載番号一ないし一六のとおりである。

イ 鳥取県○○郡○○町○○字○○○×××番地×宅地四〇・〇六m2は被相続人が昭和一七年ごろ前所有者中島一太郎から買受け、同三八年二月一五日被相続人自身の意思に基づき前所有者から相手方春子の夫田辺正雄名義に所有権移転登記をしたもので、同人に生前贈与されたものと認めるのが相当であり、この点相手方芳子に異議がなく、申立人も当初これを遺産分割の対象としてあげていたが、審問の過程で上記の点に異議のない旨表示するに至つたので、同土地は被相続人の遺産に含めないこととする。

ロ 鳥取県○○郡○○町○○字○○×××番地×宅地二三五・四〇m2は被相続人が前所有者田岡幸一から買受けていたのを相手方芳子が岡本与三郎と結婚後同所に家を建てて移り住んだ際、被相続人自身の意思に基づき上記与三郎名義に売買取得した如く所有権移転登記をなしたもので、上記事情からして同土地は被相続人から上記与三郎に生前贈与したものと認めるのが相当であり、申立人も本件申立当時はともかく、その後この点に異論がない旨表明しており、相手方春子も同様であるので、遺産の範囲に含めないこととする。

ハ 別紙目録番号一五の土地は、相手方春子によれば、農地法の制約上前所有者根本良子から相手方春子が買受けることができない(相手方春子が基準量以上の農地を所有しないため右譲渡を受けるにつき農地委員会の許可が得られない)ため、被相続人名義で買つてもらつたもので、実質は相手方春子の所有のものであると主張するが、そのような事実関係を認めうる確たる証拠はないうえ、その主張自体から明らかなように相手方春子が根本から上記土地を取得することはありえない(農地法三条所定の許可がない限り無効)し、被相続人と相手方春子の内部関係においてこれを相手方春子の所有とする旨の合意があつたとしても対第三者関係においてこれを主張することを得ない(相手方春子は相続を原因とするのではない限り、被相続人から同土地の譲渡を受けることも上記同様にできない)から、相手方春子の主張は採用できない。結局上記の土地は、後記のとおりその取得についての相手方春子の寄与に対し相当の分前を与えるべきではあるものの、被相続人の遺産の範囲に属すると解するほかはない。

(2)  現金、預金、株券

イ 被相続人の交通事故死に基づく自賠責保険金残額

一、四〇四、七〇〇円

被相続人が昭和四四年七月三日交通事故にあい死亡したことにより自賠責保険金三〇〇万円が同四五年一〇月一四日申立人に交付され、同人においてこれを管理してきたところ、同人はこれを被相続人が生前事業経営上負担していた国民金融公庫に対する債務三五二、〇〇〇円と約束手形債務計一、二四三、三〇〇円の支払に充当したことが認められる。

遺産債務は一般的には遺産分割の対象にすべきではないと考えられ、従つて相続人の一人によるその弁済も遺産分割手続のうち外の問題として取扱うべきとも考えられるが、本件の場合には、上記債務の存在が確実であり、しかもその弁済が相続財産の中から正当になされていることが認められ、且つそうである限り遺産分割の手続上右弁済の結果を是認し後に求償の問題を残さないよう取扱うことにつき全相続人間に異論をみないから、上記自賠責保険金受領額から上記債務弁済額を控除した残額金一、四〇四、七〇〇円(以下自賠責保険金残額という)をもつて本件遺産分割の対象とするのが相当である。

ロ 被相続人の交通事故死に基づく損害賠償金二、〇一〇、〇〇〇円

被相続人の交通事故による損害賠償示談金として加害者から相続人らに対し、昭和四六年三月五日二〇万円、その後分割払により同五一年三月までに計一八一万円(すなわち総計は二〇一万円となる)が支払われた(申立人が受領、管理、以下これを損害賠償金という)。

ハ 普通預金  計一、一七九、一四〇円

a 株式会社○○○○銀行○○支店に対する田辺組田辺吉松名義の普通預金一、一七七、二六四円同銀行同支店に対する田辺吉松名義の普通預金 一、八七六円

b 預金は法律上債権であるが、社会生活上の機能としては現金と同一視できるものであり、相続人の間でこれを遺産分割の手続の中で分配清算することに異議がないので、本件遺産分割の対象範囲内に含めることとする(以下普通預金というときは右両預金をさす)。

ニ 株券

株式会社○○○建設会館株券   (額面一〇、〇〇〇円)一枚

株式会社○○○○○建設会館株券 (額面一〇、〇〇〇円)九枚

同               (額面一、〇〇〇円)九枚

4  相手方春子の寄与分

前記別紙目録番号一五の土地(以下○○の土地という)を被相続人が購入する際、その代金約八六〇、〇〇〇円のうち九〇、〇〇〇円程度は被相続人が支払い、残りについては被相続人と相手方春子が連帯債務者になつて農林漁業金融公庫から七七〇、〇〇〇円を借受けてその支払にあて、右借受債務の支払は、相手方春子が上記○○の土地その他前記相続財産として挙示されている別紙目録記載の各田畑(但し、番号九の田は除く)を夫田辺正雄とともに耕作してその収益から割賦払によりこれをなす(同収益の他の部分をもつて被相続人、申立人、相手方春子の家族の家計を維持することになる)ことで、被相続人と相手方春子の間で合意をみ、且つそのとおり実行されてきたことが認められる。そうすると、相手方春子は被相続人が○○の土地を取得するにつき、他の相続人に比して多大の協力貢献をなし、且つその程度は被相続人の子であることに基づく普通の協力の程度を越えているということができるのであり、かかる寄与の結果は、遺産の中に潜在的持分としてあり、遺産の分割に際しては、その清算を求めうべきものと解するのが公平の観念上相当であるところ、上記○○の土地取得の事情経過からして、相手方春子の上記寄与の程度は、上記○○の土地の六割の持分に相当すると認めるのが相当である。

5  相続開始時の遺産の評価額

(1)  別紙目録番号一ないし一五の遺産の相続開始時の評価額は、同目録昭和四五年欄のとおりと認められる。

(2)  別紙目録番号一六の遺産(以下○○×××の××の土地という)については昭和五〇年二月八日相続人全員の合意により代金三、〇〇〇、〇〇〇円でこれを前島明夫に売却し、且つその代金は、昭和四四年七月被相続人が交通事故で負傷して以来相手方芳子の夫岡本与三郎が被相続人の土建業をまかされ経営するにつき負担した債務の弁済にあてるため、すべて相手方芳子において受領したことが認められ、以上の事実関係の実質は遺産の一部分割の協議が成立したものと解されるところ、その際全相続人間に、将来残余の遺産を分割するにあたつては上記相手方芳子受益の点を斟酌し、全体としての遺産の各相続人への配分が公平になるよう取計らうことで合意が成立していることが認められるのであり、またそうするにつき何らの障害も認められないから、上記遺産の一部分割を無効とすべき理由はない。

しかして、全体の遺産の配分を公平に行なうには、上記相手方芳子の取得分を特別受益の持戻の場合と同様に取扱うことが相当と考えられるから、まず相手方芳子の取得分の価額を相続開始時の現価にひきなおした価額を確定すべきところ、これを得るため貨幣価値の変動率(物価指数)に従つて算出する方法も考えられるが、相手方芳子の得た利益三、〇〇〇、〇〇〇円は遺産たる土地の価格であるから、同五〇年二月八日の時点で一応相続人間で納得の得られた三、〇〇〇、〇〇〇円という価格を基準にして、同土地周辺の地価変動率に従い相続開始時の上記土地の価額を算出し、これをもつて相手方芳子の取得分の相続開始時の現在価とみなすのが相当である。しかして、別紙目録記載の本件遺産中の番号一六を除く土地の地価は、鑑定の結果によれば、相続開始時である昭和四五年八月三〇日から同五四年五月一〇日までに全体として約三・五倍に上昇しており、上記○○×××の××の土地を他に売却した同五〇年二月八日は上記期間のほぼ中間の時点であるから、この時点を境にして上記期間を二つに分け、両期間の間に同一の割合による地価の上昇があつたものとしてその平均値を求めると、上記本件遺産中の土地の地価は同五〇年二月八日の時点では相続開始時の約一・八七倍になつたものと認められるから、上記○○×××の××の土地の売却時価格を相続開始時の価格に時点修正するための地価変動率として、この数値を採用することとする。そこで前記三、〇〇〇、〇〇〇円を上記地価変動率一・八七で除すると、上記○○×××の××の土地の、すなわち相手方芳子の得た利益の相続開始時の価額は一、六〇四、二七八円となる。

(3)  その余の遺産の相続開始時の評価額は前記三(2)記載の自賠責保険金残額、損害賠償金額、普通預金額、株券の額面金額のとおりである。

6  相続人の具体的相続取得分の算定

(1)  相続開始時の遺産の価額

上記五記載の遺産の評価額の総額は、本件分割の対象となる遺産の総額一〇、一三六、四三三円に前記五(2)記載の相手方芳子の既取得分一、六〇四、二七八円を加算した額一一、七四〇、七一一円であるところ、前記四の被相続人による〇〇の土地取得に対する相手方春子の寄与分(1,981,200円×0.6 = 1,188,720円)を差引くと、一〇、五五一、九九一円となる。

(2)  各相続人の本来の相続分

上記一〇、五五一、九九一円の三分の一にあたる

三、五一七、三三〇円

(3)  本件遺産分割における各相続人の具体的相続分

申立人 上記(2)記載の額に同じ  三、五一七、三三〇円

相手方春子 上記(2)記載の額に前記寄与分の価額一、一八八、七二〇円を加算した額

四、七〇六、〇五〇円

現手方芳子 上記(2)に記載の額から前記既取得分の価格一、六〇四、二七八円を差引いた額

一、九一三、〇五二円

(4)  各相続人の現実の取得分

イ 本件分割の対象となる遺産の現在における価額

a 別紙目録記載の各遺産のうち土地建物の現在価として、本件審判時に最も近い時点での鑑定結果(別紙目録昭和五四年欄記載の価額)を採用することとする。

b 前記自賠責保険金残額、普通預金は、いずれも申立人がその保管を開始してから少くとも九年が経過し、損害賠償金の場合は少くとも四年が経過するところ、自賠責保険金残額、損害賠償金は、申立人が管理運用していることが認められるし、普通預金は銀行利息がついていることが認められるから、これらについては民事法定利率年五分の割合による利息を付加した次のとおりの価額を現時の価額とみるのが相当である。

自賠責保険金残額 1,404,700円×1.45=2,036,815円

普通預金額 1,179,140円×1.45=1,709,753円

損害賠償金 2,010,000円×1.2 =2,412,000円

c 株券の価額は現在(昭和五三年一二月五日以降同額)額面金額の二倍になつていることが認められる。 計二一八、〇〇〇円

d 以上の遺産の価額を総計すると二三、二一〇、〇二七円となる。

ロ よつて各相続人の現実の取得分を算出すると

申立人    23,210,027円×3517330/10136433= 8,053,851円

相手方春子  23,210,027円×4706050/10136433=10,775,738円

相手方芳子  23,210,027円×1913052/10136433=4,380,435円

7  各相続人の生活歴と現在の生活状況ならびに遺産の管理状況

(1)  申立人

申立人は大正五年二月二二日生で農業兼土建業を営む被相続人の二度目(法律上)の妻として昭和三八年一〇月婚姻し、当初は相手方春子夫婦とも同居していたが、同四一年ごろ別紙目録番号一〇の土地上に番号一一の隠居所を被相続人が建てたに伴い被相続人とともに同所に移り住み、同四四年七月三日被相続人が交通事故にあい第五頸椎脱臼、脊髄損傷の傷害を受けて両上下肢が完全に麻痺し寝たきりとなるや、病院自宅での看病にあけくれ、被相続人が同四五年八年三〇日死亡後は上記家屋に独居し、隣地の田(現況宅地)を管理し、老令国民年金の支給を受け、○○電力の電気代の集金をして手数料収入を得るほか、弟田辺宗三郎や、先夫との間の子南田朝一郎からの援助を受けて生計をたてており、高血圧、子宮内疾患のため、健康が優れないという。

なお申立人は、前記自賠責保険金残額、損害賠償金、普通預金、株券を管理運用している。

(2)  相手方春子

相手方春子は昭和四年三月一二日被相続人と田辺みよとの間の女として生まれ、みよ死亡後被相続人の妻となつた田辺きみに育てられ、別紙目録番号一二、一三の家屋敷に住んで被相続人の営む農業の手伝をしながら成長し、同二五年三月田辺正雄と結婚(婚姻届は同二六年二月二八日)してからも右家屋において被相続人と同人が前記隠居所に転居するまで同居し(この同三八年四月一二日きみ死亡)、後記相手方芳子結婚のころ被相続人が中断していた土建業を再開するや、夫正雄とともに田辺家の農業の実質的な担い手となり、二人の男子をもうけ、被相続人死亡後も引続き上記家屋に住んで前記別紙目録記載の、番号九を除いた田畑、原野の耕作管理を継続している(但し、番号六の土地は現在後記岡本与三郎の債務の弁済の連帯保証人となつた田辺幸一に耕作させ、番号一四の畑は山村秋夫に耕作させている)が、近年はヘルニヤ、神経痛の持病があつて、家事さえ苦痛であるという。

なお相手方春子の夫田辺正雄は、後記のように相手方芳子の夫岡本与三郎の連帯保証人となつたためその弁済に追われ(同正雄は○○信用金庫から昭和五〇年四月三〇日に一、〇〇〇、〇〇〇円、○○町農業協同組合から同五〇年一二月一日一八〇、〇〇〇をそれぞれ借受け、上記債務の弁済にあてるなどしている)、農業のかたわら土方仕事にも出て稼働しているが、生活は楽でないという。

(3)  相手方芳子

相手方芳子は、昭和六年一一月二七日被相続人と田辺みよとの間の女として生れ、成年に達するまでは相手方春子同様の生活を送り、同二九年ごろ岡本与三郎と結婚(同三〇年六月一日婚姻届)してからは被相続人の家を出て近所(前記三(1)ロ記載のとおり)に住み、夫与三郎が被相続人の土建業を手伝い、被相続人が交通事故により負傷してからはその一切をまかされたが、その経営に失敗して多額の負債(約三〇、〇〇〇、〇〇〇円位)を負うこととなり、相手方芳子は前記のとおり同五〇年二月八日相続人全員の合意のもとに○○×××の××の土地を売却してその代金を取得し上記負債の弁済にあてるなどしたが、これを完済するに至らず、ついに同五〇年三月六日夫与三郎と男子二人、女子一人の子とともに出奔し、大阪府方面へ姿を隠し、現在所在は判明するも、本件審判に必要な最少限度の連絡をしてくる程度で、申立人や相手方春子との交際を絶つている。

なお、上記のように相手方芳子が所在不明になつたため、同人に対する債権者有限会社○○○○○においてその債権(岡本与三郎の同会社に対する元本計一、〇三〇、〇〇〇円の債務につき相手方芳子が相手方春子の夫田辺正雄、田辺幸一とともに連帯保証したもの)を確保するため、別紙目録番号一ないし一〇、一五の各土地につき昭和五〇年三月七日金銭準消費貸借の強制執行を代位原因として、本件各当事者に対する所有権移転(原因昭和四五年八月三〇日相続、共有者申立人、相手方春子および同芳子、その持分各三分の一)の同目録番号一一ないし一三の居宅、付属建物(但し番号一三のうちの納屋は除く)につき本件各当事者の所有権保存(各当事者の持分上記に同じ)の各代位登記をなしたうえ、上記相手方芳子の持分につき強制競売の申立をなしたが、現在同手続は当事者間の話合いにより一時停止されている。

8  本件遺産分割に対する当事者の希望

(1)  申立人

別紙目録番号六、九ないし一一の各土地建物と自賠責保険金残額を含め、遺産の三分の一にあたるものを取得することを希望する。

(2)  相手方春子

遺産のうち不動産については申立人にはその居住する土地と家屋(別紙目録番号九ないし一一)を取得させてよい。相手方芳子は前記三(1)ロ記載の土地(夫岡本与三郎名義のもの)を実質上生前贈与として取得しており、且つ前記○○×××の××の土地も取得しているから、そのほかに別紙目録番号六の土地を取得させて今なお残存する相手方芳子の夫岡本与三郎の前記事業上の債務を弁済させることとしたいが、それ以上には取得分はないと考えられる。他の不動産は相手方春子において取得したい。

他の現金等の遺産については適正な配分を希望する。

(3)  相手方芳子

遺産はすべて相手方春子の長男田辺文夫に取得させたい。

9  遺産分割

前記認定の本件遺産の現況、管理状況、各相続人の生活状況遺産分割に対する希望、その他一切の事情を勘案すれば、本件遺産の分割は次のとおりに定めるのが相当である。

(1)  別紙目録番号一ないし五、七、八、一二ないし一五の土地建物は相手方春子に取得させる。そうすると相手方春子は前記六(4)ロ記載の計算上の現実の取得分に比し、一四三、七八六円の過大取得となることで、この額を相手方芳子に対する債務負担の方法により清算させることとする。

(2)  別紙目録番号九ないし一一の土地建物および自賠責保険金残額、損害賠償金、株券は申立人に取得させる。

(3)  別紙目録番号六の土地は相手方芳子に取得させる。

(4)  別紙目録番号一六の土地については、昭和五〇年二月八日に遺産の一部分割の協議が成立して相手方芳子の利益に処分されていること前記のとおりであるから、本件分割においては分割の対象としない。

(5)  以上の分割方法によれば、申立人と相手方芳子の取得分が未だ前記六(4)ロ記載の数額上の現実の取得分に満たないので、残る遺産である普通預金は右両名の間で分配すべきこととなるが、預金引出手続等の便宜上、同遺産を管理する申立人にこれを取得させ、代りに相手方芳子の不足分は、同人に対する債務負担の方法により清算されることとし、相手方芳子の不足分相当額すなわち一、三四五、八五二円の支払を申立人に命ずることとする。

10  ところで、前記のとおり別紙目録番号一ないし一〇、一五の土地、番号一一ないし一三の建物(但し納屋を除く)については共同相続人全員のため相続による所有権の移転又は保存の登記がなされているから、これらについては上記遺産分割の結果と登記を一致させるため、主文第二項のとおり本件遺産分割を原因とする所有権(持分)移転の登記手続をするよう各当事者に命ずることとする。

11  手続費用中鑑定人、証人に支給した分については、諸般の事情を考慮して、主文第三項のとおり負担させることとする。

12  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 東修三)

別紙目録<省略>

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